検索欄に入れる言葉がない
どこかへ保存したはずの文章を探している。誰が書いたのか、何という題名だったのかは覚えていない。ただ、駅で人を待つ話だった気がする。読んだときに、これは後で使えそうだと思ったことだけは覚えている。
「駅」「待つ」「約束」。検索欄に入れてみる。見覚えのないメモが出る。何も出ない。もしかすると、駅ではなくバス停だったのかもしれない。
探したいものはあるのに、それを呼び出す名前がない。全部を保存できるようになっても、こういう途方の暮れ方は残る。
以前は、保存してさえおけば後で何とかなると思っていた。けれど、保存した事実を覚えている今でさえ、この有様だ。保存したこと自体を忘れた文章は、検索欄の前に私を立たせることもできない。
保存したときの私は、説明を省く
メモを作っている最中は、その内容をよく知っている。どの問題を解こうとしていたのか。なぜこのページが必要なのか。直前に何を試して失敗したのか。頭の中では全部つながっているので、書く必要を感じない。
そこで、URLだけを貼る。あるいは、よさそうな説明を丸ごと保存する。未来の自分も同じ事情を知っているものとして、引き継ぎを終える。
後日の私は、何も知らない担当者としてそのメモを開くことになる。丁寧な技術解説はある。自分が当時困っていたことがない。設定例を見ても、実際に試したのか、今度試すつもりだったのかが分からない。
保存した情報が間違っているわけではない。それでも、自分の作業の続きとして使うには足りない。説明の本文は他人が書いてくれるが、私がそれを残した理由までは、書いてくれないのだ。
資料名の横に、用事を書いておく
これからメモを残すなら、資料の正式な名前に加えて、自分が何に困っていたかを一行書くところから始めたい。
「同期の設定」だけでなく、「PCを閉じたあと、スマホで続きを書きたい」。「検索機能の比較」だけでなく、「題名を忘れたメモを探したい」。技術用語を忘れた未来の自分でも、用事の方は言葉にできるかもしれない。
引用なら、選んだ理由を添える。作業記録なら、試した結果を書く。「解決した」「ここまでは動いた」「これは試していない」。同じページに並んでいても、その三つは同じ情報ではない。
細かく書きすぎると、今度はメモを残すことが面倒になる。未来の私のために現在の私が疲れ切っては、続かない。まずは、保存ボタンを押した手を少し止めて、「何のために」を一行だけ書く。その一行があれば、後から説明を足す場所も見つかる。
読み手は自分だから省いていい、と思っていた。自分だからこそ説明を省きすぎるのだと考えると、書き足すものが少し見えてくる。
AIが見つけても、まだ確かめたい
曖昧な記憶から探す仕事には、AIの助けを借りたくなる。検索できるメモを渡して、「たしか、人を待っている場面について書いた」と尋ねる。言葉がぴったり一致しなくても、候補を示してもらえるならありがたい。
そのとき欲しいのは、もっともらしく再現された文章より、元のメモへの入口だ。ファイル名、該当する箇所、前後の文章。そこへ戻って、自分が探していたものかを確かめたい。
「これだった」と思って開いてみると、違うことがある。話題は近いが、当時気になった点が違う。待つことについての文章なら何でもよいわけではない。探していたのは、待つのをやめるときに誰も相手へ連絡しない、その妙な寂しさだったのかもしれない。
逆に、目的のメモではないのに、今の文章に使いたいものが見つかることもある。その偶然は歓迎したい。ただ、探していた記録が見つかったことと、新しく面白いものに出会ったことは、区別しておく。後者に満足して、前者まで確かめたつもりにはなりたくない。
探さない日に、目に入る
検索は、探し始めてから頼りになる。それでは、何かを探そうとも思っていない日のメモには、どうやって会えばよいのだろう。
少し前のノートを開く。書きかけの文章から、関連するメモへリンクを一本置いておく。机の上に本を一冊出しておくのと同じように、目に入るところへ一つだけ置く。全部を定期的に見直そうとすると、それだけで新しい仕事になってしまうから、範囲は小さくていい。
古いメモに会っても、何も起きない日がある。以前の自分はこんなことを考えていたのか、と読んで閉じる。それでも、しまった場所を少しだけ覚え直すことにはなる。
やがて、書いている文章の途中で、あれがあった、と浮かぶ。正確な文言は思い出せなくても、あのノートを開けばよいところまでは分かる。そこから先を検索に任せられれば、ずいぶん助かる。
保存する量を増やすことばかり考えていたけれど、一度保存したものを使う時間も必要なのだろう。書き写す。リンクを置く。誰かへ説明するときに開く。そのたびに、メモはただの保管物から、今やっていることの一部になる。
探していた文章が、ようやく見つかったとする。今度はその末尾に、見つけるまで検索した言葉も書き足しておこうと思う。
正式な題名は分かった。それでも「駅で待つ話」と書いておく。次に探す私が覚えているのは、またそちらかもしれないからだ。


